路上
海底に眼のなき魚の棲むといふ眼の無き魚の恋しかりけり
とある、酒仙歌人が子持ちの人妻との情熱的な恋を泥沼の中で終わらせ、それでも忘れられず酒に溺れ荒んでいた頃歌である。
作業三日目間が終わり、打ち上げで飲んできた。安い居酒屋の酒はアルコールというよりも薬品に近い匂いと味がして頭が痛くなった。
飲みの席でわちゃわちゃと移動した中で彼女が私のいた席に移ったものだから置き去りにしたスマホ戻りに行けず一人誰ともしゃべらずその辺の人間の話に首をふっていた。
したら、私の不仲を知っているサークル長が「酒の席なんだからあの子と腹を割って全部話して仲直りしないか。俺としては2年の頃の2人に戻って欲しいんだけど」と。話しているうちに宴会はお開きになり何も言えなかった。
「私だって戻れるのならなりたいよ」と返した。
腹を割って全て話したら仲直りできるような関係ならばよかったのに。
話せるのなら何から話せばいいんだ。
貴女の事が好きだったことから?
貴女を今でも見てしまうことか?
貴女の姿を今も探してしまうことか?
あの頃、貴女のことが好き過ぎて周りが見えなくなっていたことか?
貴女の海を見つめた横顔や、声や、好き嫌いを懐かしく思い出せることか?
今じゃもう、貴女についていけないと思っていることか?貴女を尊敬しながら軽蔑していることか?
あの日から何度も泣いて後悔しながら生きてきたことか?
もう私が消えたら全部済む話だとか
貴女の考え方や色んなところが嫌いだということか?
そんなの腹の中すべて晒したら、怖くてたまらない。だから戻れるわけねぇだろ。
昔、ずっと友人だと思っていた女に襲われかけた、そんな過去を辛そうに話した貴女に言えるわけがないだろ。
女が好きだと言って、私の様な人間はダメで、綺麗な人が好きで可愛い人が好きで、どちらかと言うとあんなに可愛いのにタチの方だっていうような貴女に言えるわけがないだろ。
ネット上とはいえ年上のバーテンのお姉さんの彼女がいて、それに応援してるようなフリをしながら、それでも現実世界じゃ一番近くにいたという自負心を居座って持っていたとか。
貴女の姿を今でも見ると心が動くとか。
もう、あの時の二人ではなく動き出していることも全部話しても。
他人じゃ分からないようなことを沢山知っていてそん中の付き合いで、サークル長の考えている以上に問題は大きくて。
もう、戻れやしないのだろ。
全部晒したところで彼女は受け入れてはくれないだろ。
私が諦めた方が手っ取り早い。
そう感じる。
だからサークル長、この問題そこまでポンと解決しないのよ。
歩み寄るしかないと言われても、私は拒絶されたから拒絶したんだよ。
あの子がこれ以上歩み寄るとも思えないし、仲直りしようとか思えない。仲直りできるような二人じゃないんだから。
普通の友達なら、よかったのに。
私がただの友達なら