戦っていれば負けなし、らしい
私は常々「金木犀の香る頃、雲一つなしの秋晴れの中、死にたい。」と思っている。
西行法師が桜の咲いた満月の頃死にたいと願った様に。
かれこれ、何年こう思い続けて生きてきているのだろうか。少なくとも去年も確かこう思っていた。
物心ついてこの9月10月の頃、嗅いできた匂いを金木犀の花の匂いだと自覚したのが中学あたりだった。
私が初めてこの香りを嗅いだのは幼稚園、糊の匂いだった。お花の形の容器を開けるとこの甘ったるい匂いだった。
金木犀、某戦国バラエティ番組の三英傑のパロバンドの信長が好きだと言ったこの花の匂い。聞けば、木犀というのは桂花と言われるという。桂男という妖怪は月に住み満月の夜、月を眺めるものの寿命を縮める美男だという。私がこの業界に足を踏み入れたきっかけとなった男も桂という名前を持つ男だった。声は石田彰だった。
また、私の好きな人は、二人とも
この季節に死んだ。
旧暦で一ヶ月ずれるなんて知るか。
だからだろうか。
この季節に死にたいと願うのは。
こんな季節に死ねば、皆があっけらかんとして過ごしてくれると。ただ、しみじみと思い出してくれると思っているのか。本当にいい季節だと思う。出費がかさんでくれる。
懐かしい。
高校の頃にこの香りの練り香を買ったことがある。
この前京都で見つけて買ってしまった。
確か、高校の頃の親友に塗り合いをした。百合みたいな展開だが。
だが彼女には別に特別な想いなんてのは抱かなかった。凄い美人だったけど。
私の友人は無自覚美人が多い。
あの子もそんな1人だった。
だから、平気で皆勧めてくるのだ。私に女らしくしろと。
そりゃ幾ら男になりたかろうが君のような美人ならば、よいだろう。どちら側に転ぼうがどちらにせよ、誰かが愛してくれるはずだ。
私はなんなのだろう。
鏡を見れば悲しくなるほどの醜女だ。
だからこそ、嘘をついて笑う。男になりたいだなんて、口をついては出せない。
どちらに転んだところで醜いものは誰も愛してくれやしない。
彼女は汚いブスより小綺麗なブスの方が拾うという。
でもな世の中は小綺麗なブスよりも、汚い美人を選ぶだろう。そういうものだろう……?女性が綺麗な年収の高い不細工よりも小汚くてダメンズなイケメンを選ぶように。
父親に子供の頃、カンナさん大成功ですを見せられた。父親は近所のコンビニの小太りな店員さんを罵る。クソみたいだ。
悲しいな。
クソだ。
私の友人は体型はでかい。だが、余程そこらの人よりも正義心は強いし几帳面だ。それこそ私は比喩だが、爪の垢を煎じて飲まされるようなくらい努力家だ。
だが、友人はこの体型だからねと悲しげに笑う。
昔から私には、ぐるぐると回る思考の中でただ絶望する癖がある。希望を見ては絶望する。本当の絶望を思えば、また絶望する。私より大変な人がいると考えて、私は何も言えないのだとにクソだと心の中で泣きながら唾吐く。アルパカみたいに。
疲れた。
この疲れたという一言を言う前に、私よりも疲れているはずの人間を思い、疲れたと言えなくなる。祖父母と父に虐げられ罵られる母親を思い出す。
彼女自身がそう言うのだ。テレビを見て困っている人を見ると私の方がつらいという。だから私は母の前ではつらいと言えぬ。
ああ、もう嫌だ。なにもかも
と思えても思えず。結局ぐるぐると上手くは言えないがぐるぐると思考が巡る。
この思考を止めるには息を止めるしかないのだろうが、それをやってはいけない気がする。死んだら何も無い。やったところで取り返しがつかぬ。やっぱ駄目だったなんてことは無い。全部無くなるのだが、何かそれは嫌だ。痛いのよりも嫌だ。私、余命宣告なんかされた日には狂う。嫌だ考えたくもない。
だが、時に「死にたい死にたい」とでかい独り言が出る。
昨晩、地震が起きた。結構でかかった。一瞬直下かと覚悟を決めた。
脈が早く打ち、ヒステリー球がググりと閉まる。死にたくないと、地球にイラついた。
クソと、悪態が外に出た。携帯を見たら震度は2だった。
私はやっぱり死にたくないのだろう。
だが、だからこそ、つらいのだ。
毎日、私は過去の事を悔み過去の私に殺意を向ける。昔は「ごめんなさい」だったのが、今は「死にたくない(死にたいの進化系)」だの「死ねばいいのに」だの「ああああ」だのでかい独り言を言う。あまりに苦しくて調べてみたら、「ミソり」「ミソる」だとかネットでは言われているらしい。また「罪業妄想」という言葉にも突き当たりこれは初期の欝だとか言う。でもそこまでじゃない気がする。ミソりが丁度いい。
とにかく私には死ぬ気は無い。ただ、気分が重く、時々でかい独り言が出る。ただ、自分には何も出来ないと思う。ただ、本当は違うという私もいる。社会が怖いと、人が怖いという私もいる。ぐるぐると巡る。
めんどくさいな。こんな風にぐるぐる思考はめぐる。
偉大な落伍者が言うには、
戦っていれば、負けないという。
そうね、戦いをやめたら存在が消えるものな。核シェルターが耐えきれなかった時に苦情が来ない様に。
絶対に勝てやしないのだけど。